「洗い流すタイプ」と、「ふき取るタイプ」


「洗い流すタイプ」と、「ふき取るタイプ」ブログ:2016-12-02


一週間位前、二ヶ月振りにママが帰ってきた。

「お父さんの還暦祝いをするんだけど、来てくれる?」

お父さんの勤務地が変わって、
ママはお父さんと大阪駅へ行ってしまった。
そして、ママはときどき一人で大阪駅に帰ってくるのだ。

ママが戻る日…
おれは仕事で休めなそうにないから無理だと言うと、
ママは寂しそうな顔で家を出ていった。

おれは家で一人ぼっちになると、
ママには悪いことをしたなぁ…と後悔した。

沈んだ気分を吹き飛ばしたくて
おれはテレビをつけた。

司会者とゲストが楽しそうにおしゃべりしている。
その遣り取りで、
おれはゲストが司会者から電報を受け取っているのが気になった。

「そういえば、電報という手があるな!」

お父さんの還暦祝いに、
おれは真っ赤な鳳凰が羽ばたいているデザインのカードを選んで、
メッセージを添えて贈ることにした。

お父さんの還暦祝いが行われた翌日、
ママから電話がかかってきた。
ママの声はいつもより弾んでいた。

「ありがとう。電報届いたよ。
感情をあまり出さないお父さんの久しぶりの笑顔が見れたわ」

「お父さん、喜んでくれたんやな」

「当り前よ。お父さんね、メッセージを読んでからしばらくの間、
鳳凰にみとれていたわ」

おしゃべり好きのママの話はいつものように脱線し、
なかなか話が尽きなかったが、
ようやく電話を切ることができた。

ママの声が聞こえなくなると、
今度はお父さんの姿が浮かんだ。

今頃
座敷に胡坐をかいて愉快な顔で
お父さんはお酒を飲んでいるのかなぁ…

その横で、あの真っ赤な鳳凰は羽を休めていることだろう…